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[家庭生活を進化させたばね|遊び心を伸ばすばね|ばねに遊ぶスポーツ] |
人間のもつ有機体としての柔らかさと、物質のもつ硬さが出会うとき、快適さを要求すれば、そこには必ずばねが介在してくる。家庭という人の生活の根源の場において、ばねの利用は広く、深く浸透している。 |
●シンプルな働き |
最もシンプルで基本的なばねの利用といえるものが、洗濯ばさみである。 木やプラスチックの2つのはさみ片をリング型の針金で押さえ付けているだけだが、ばねの弾性を見事に利用している。 私たちが毎日のように使っているシャープペンシルの芯出しのノック部には圧縮ばねが使われている。胸のポケットにさし込む金属性のクリップ部は薄板ばねが利用されている。 事務用品のクリップや紙ばさみなども、同様にばね機能を使った簡単で便利な製品である。 |
●家事を楽しくする電気製品 |
家庭生活の向上は電気製品の発達によるところが多い。電気製品にはいろいろなばねが使われている。掃除機をみると、本体へのホース差し込み具の押えばね、自動的にコードを巻き込むぜんまい、ゴミの吸収率を計り色で指示するインジケータばね等々、多くのばねが使用されている。適度な焼き具合になるとパンが自動的に飛び出し回路も切れるトースター、これはばねとバイメタルの働きによるものである。パンを乗せた昇降板が下がり、下部のフックにより止まる。これでスイッチが入る。熱くなるとバイメタルが働いてスイッチが外れ、昇降板の上下に使われているばねにより、パンが飛び出してくるという仕組みになっている。 その他、洗濯機、電子レンジ、冷蔵庫や、楽しい生活をエンジョイするテレビ、ビデオ、ステレオ等ほとんどの家庭用電化製品には、押したり、引いたり、曲げたり、ねじったり、時には、曲げられながらねじられたり、私たちが何気なく行なう働きかけに、ばねは目立たないながら懸命に働いている。 |
●動力源はぜんまい |
金属の板を長くしてぐるぐる巻き込むと、大きいエネルギーを蓄えることができる。ところで、ばねのひとつであるぜんまいが登場したのは15世紀ころのことである。構造的に簡単で手軽に作れるため、おもちゃの動力用としていろいろ利用されてきた。 ぜんまいは、いうなれば人力エネルギーためこみ装置で、おもちゃに装着されたぜんまいはキリキリ巻かれ、それがほどける時の力によって、いろいろに作動する。 ぜんまいおもちゃに「チョロQ自動車」があるが、ぜんまいを巻かれて素早く走る小さな自動車に歓声をあげるこどもたちの姿は、偉大なぜんまいの力を感じさせる。 |
●オルゴール |
箱のふたを開けると、メロディーが流れてくるオルゴールは、19世紀の半ばにオランダから渡来したといわれる。 構造は、箱の中に音階を出す金属の振動板をくし型に取り付け、それに接してたくさんのつめの付いたきぬたという円筒型のドラムを入れている。ドラムがぜんまい仕掛けで回転すると、ドラムのつめが振動板をはじいてメロディーをかなでるもの。切れ込みの長い振動板は低い音、短いものは高い音を出す。 オルゴールの上ぶたを開けるととめ金が外れ、風切りばねが回転し始めて動力のぜんまいが動き始めるが、ふたを閉めると回転が止まり、動力はぜんまいに蓄えられたままになる。 狭いところに大きな弾性エネルギーを蓄えることのできるぜんまいばねは、他に、時計や蓄音機などに利用された。 |
●竹細工 |
竹もおもちゃの材料として昔から使われてきた。曲げたりねじったりすると元に戻ろうとする性質を利用し、竹てっぽうや竹車などをつくって楽しんだ。 昔、こどもに人気のあった竹細工のなかでも「昇り猿」のように竹の弾性を利用したものはユーモラスだ。軸にU型に折り曲げた竹を通し、その上に猿の人形をのせる。竹の弾性で、猿はスルスルと軸を登っていく。寅さんで有名な柴又の帝釈天では“身上のぼり猿”と銘うって、庚申の日には縁起物として売り出し、人気を集めた。 |
スポーツとばねとはきっても切れない間柄といえる。肉体の弾力性、すなわち天賦のばねを使うのがスポーツなのである。スポーツは、健康で強靱な体をつくり、同時にストレスの発散にもなる。 もちろん使用する道具にも、数多くのばねが使われている。より遠くへ、より速く、より高くへと人類の夢をサポートしているのがばねなのである。 |
●スポーツ器具 |
フレームに、強いナイロンテープを十文字に織ったベッドをスプリングコイルで引張り、その上でからだを大きく弾ませながら空中で回転やひねりなどの演技を行なうトランポリン競技。トランポリンの台は、まさにばね利用のスポーツ器具の代表ともいえる。弾性に富むナイロン素材が外力(人間)で弾み、外力を弾き返す様子は、トランポリン競技が別名「人間ばね競技」といわれるのにふさわしい光景である。こども用のミニトランポリンのベッドは、弾性をもつ1枚の布でできている。 ばね利用のスポーツ器具には他に、エキスパンダー、握力・背筋力計、棒高跳びのポール、バスケットボールのボード、飛び込みのボード、弓など多数がある。 最近では、陸上競技のシューズのかかとの弾性にも細心の注意が払われるようになり、クッション性の大きいゴムが多く用いられ記録向上に一役買っている。 |
●スポーツと弾力性 |
現在日本において一番なじみのスポーツといえば、野球とゴルフであろう。 高校野球、プロ野球での究極のシーンは、バットがボールを真芯でとらえた瞬間である。高速度カメラでそれを撮影してみると、バットがダイナミックにしなっているのがわかる。これがバットのもつ弾性であり、ばねの作用といっていいだろう。ゴルフにおいても同様である。ドライバーで打ったボールははじかれたように飛んでいくが、インパクトの瞬間、まるで弓のようにしなっているのがわかる。人が手で直接投げるより、道具を使ってはるかに遠くまでボールを到達させるのは、まさにばねのおかげであろう。 この他にも、折れよとばかりにしなるグラスファイバーの釣り竿など、“しなり”を利用したスポーツ用品も数多くある。 |